動物保護法が進んでいるアメリカでは全米を通じて闘犬は違法です。
しかし未だに、なおかつ自宅の地下室や倉庫など手軽に始められるギャンブルとして、アメリカでは根強い人気があります。
2009年7月、アメリカで人道的支援を行っている団体Humane Societyが闘犬によって傷つけられた数百頭の犬を救うべく活動を開始しました。
活動中、メンバーはひどいケガを負った犬を何匹も担当することになりますが、その中で彼らが最も心を痛めたという犬がいます。
引き裂かれたような傷を顔に負ったスタローンです。彼の悲惨な傷跡は、闘犬というスポーツの残酷な一面を映し出しています。
2009年7月8日、闘犬を開催していた複数の団体から、数百匹の犬が救助されました。
ミズーリ州でアメリカ史上最もひどい闘犬の現場で保護活動を進めていたのは、ラウディ・ショウ率いる動物救助チームです。
犬たちは、緊急シェルターに移送されました。
チームはそこで、ある一匹の犬を保護することになります。「この犬が私たちを選んだのか、それとも私たちがこの犬を選んだのかはわかりません。
私たちはこの犬をスタローンと名付けました。
この子の性格と、彼が過酷な戦いを生き延びてきたということから付けた名前です」とラウディは言います。
「初めてスタローンを見たとき、様々なことが私の頭をよぎりました。まず考えたのは、スタローンが深刻な傷を負っており、早急に救急措置が必要だろうということでした。次に考えたのは、いったいなぜ人間は動物に対してこんなにもひどいことをすることができるのだろうか？ということです。本当に残酷なことです。私がこれまで見た中でも最もおぞましい光景がそこに広がっていました」
スタローンが顔に負っていた傷は、見ているだけで心が痛むほど深刻なものだったと、ラウディの同僚クリス・シンドラーは言います。「この子が望んでいたのは、抱きかかえられ、触れてもらうことです。スタローンはとてもおとなしく、飼い主に従順な性格でした。彼が引き取られた家庭では、家族としての関係性を築くようなところではなく、他の犬との闘いに使われるようなところだったというのは、本当に悲しむべきことだと思います」
スタローンがこれまでどのような過酷な経験をしてきたのかは誰も分かりませんでした。
しかし状態を見る限り、文字通り、何度も切り裂かれてきたのです。「これほどの傷は数分でつくようなものではありません。もっと長時間の戦闘、1時間か、ひょっとするとそれ以上長い間闘わないとこんな傷はできないはずです」スタローンが顔に負っていた傷の深刻さは言葉に表すことができないほどのものでした。麻酔で眠らせて、ようやく傷の治療を行うことができたのです。
ラウディは言います。「本当に気分が悪くなります。なぜ人間はこのようなことを平気でできるのでしょうか。私は、人間によってこれほどまでに物理的に虐待を受けた犬が、それでも人の膝の上にうずくまり、キスをしてくれるという事実を、正直理解することができませんでした。この子から見れば私はただの他人のはずなのに、ただそばにいてくれるだけで彼はうれしいのでしょう。スタローンの目を見れば、彼が苦しんでいることがはっきりとわかりました。優しくなでて抱いてもらい、静かに尻尾を振る。彼が望んでいたのはただそれだけだったのです」
彼の命を救うため、獣医は深夜にも及ぶ手術を敢行しました。
しかし、彼が負っていた傷はもはや手の施しようのないほど深く、結局彼らは彼を永遠に失ってしまうことになりました。「スタローンの物語は語り継がれていかなければならないと思っています。これが闘犬で戦わされる犬の本当の顔だからです。彼が本当に求めていたのは、彼のことを愛してくれる誰か、愛されるペットとして、温かい家庭を提供してくれるような誰かだったのでしょう。スタローンのような犬は、愛情を求めているのです。私はスタローンの写真を飾っています。それを毎日見ることで、なぜ私がこの仕事を続けているのかを思い出させてくれます」
闘犬の開催者は、裁判で有罪判決が下され、現在連邦刑務所で24カ月の懲役を受けています。
スタローンのストーリーを紹介した動画はこちらです（英語のみ）
アメリカのキャンブル闘犬は、ルールなしのデスマッチ形式で、飼い主が相手の飼い主に謝らない限り試合は続行され、場合によってはグラディエーター（剣闘士）のように、死ぬまで戦わせることもあります。
また、敗北した犬が飼い主によって虐殺されることが多く、トレーニングや繁殖の方法も動物愛護の観点からみると非常に残酷です。
スタローンもまさにその中の一頭でした。
ここでは、犬たちに選択肢が与えられることはありません。
スタローンの最期の瞬間にも、犬たちは決して攻撃的な本能を持って生まれてきたわけではないということをレスキューメンバーは思い知らされたといいます。
彼ら「戦士」たちも、他の生き物とまったく同様に愛情とケアを必要とする普通の犬なのです。
スタローンの表情を見れば、おとなしくて優しい性格の犬であることがわかると思います。
スタローンのことを決して忘れずに、この出来事をこれから同じように苦しむ犬が生まれないための活動につなげていかなければなりません。
【引用元】
